くら寿司のアメリカ展開に学ぶ

 アメリカで暮らす日本人にとって、日本食材の調達や、日本食を”満足のいくクオリティ”で楽しめる日本食レストランを把握しておくことは大きな課題です。「毎日がアメリカの食事でも大丈夫!」という、とても適応力の高い日本人の方々もいらっしゃいますが、個人的にはあまりアメリカの食事が体には合わず、こちらで暮らせば暮らすほど、日本の食事やレストランがいかに洗練されていているかを、強く実感しながら過ごしています。

 

 カリフォルニアやニューヨークといった日本企業の多くが米国本社を置くような主要な州には、日本食レストランの数も多く、さらに良質(そして漏れなく高価な..)和食を楽しむ方法は多く存在します。しかしながら、テキサス州の人口として第四の都市であるこのAustinにおいては、それほど選択肢はありません。海外においてどこもそうかもしれませんが、人種別に見た場合に日本人の在住比率が少ない地域では、中国系・韓国系の和食レストラン中から、自分の好みにあったレストランを探すことも必要になります。

 

海外在住の日本人を救う日系外食チェーンの安定感

 そんな環境に身を置くと、日系外食チェーンの存在は非常に大きな救いとなります。アメリカに進出している外食チェーンはいくつも存在しますが、例えば”いきなりステーキ”のニューヨークへの出店が想定通りに進まなかった事例などを考慮すると、それぞれの海外展開戦略や成功の度合いというのは様々です。ここAustinには、日本ではお馴染みの「くら寿司」がありますが、先日報道された米国子会社である、Kura Sushi USA, Inc.(KSU)の米国でのIPO申請の様子を見る限り、くら寿司の米国進出は着実に成果を出していると言えるのではないでしょうか。

 

 実際に、店舗を利用してみた印象としても、日本人としての満足感がキープされているだけでなく、広くアメリカ人に受け入れられている様子を実感します。今回は、くら寿司の店舗やアメリカ展開の様子から、日系企業がアメリカに進出する際のポイントについて考察をしてみました。

 

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KURA Revolving Sushi Bar

 

成功のポイント1:他店舗との差別化に繋がるノウハウをすでに日本国内で蓄積できている

 日本企業がアメリカへの進出を目指す際に、創業からの年数には大きなばらつきがあると感じることがあります。メルカリ・楽天といった外食産業以外の市場特有の事情もあるかと思いますが、ブランド力や事業オペレーションのノウハウを含め、ある程度日本国内での試行錯誤を通じて、すでに他店や他社との差別化できるだけのノウハウを得ていることは一つの大きなポイントだと感じます。

Bikkura-pon

各テーブル備え付けのプレート回収口や、Bikkura-Pon!も大切なノウハウ

 

成功のポイント2:商材がすでに広く現地の人々に受け入れられている

 寿司はアメリカのみならず、海外では誰もが良く知る和食メニューであり、寿司そのものはアメリカにおいてほとんど説明の必要はありません。例えば、これが日本国内のある地域特有の郷土料理であるとすれば、その料理自体の特徴や味わいなどをどのように海外の潜在顧客に示していけば良いか..いうところからはじまり、非常に難しいマーケティング上の課題と最初に向き合うことになります。

 すでに現地において十分に受け入れられている寿司のような商材を扱う場合であれば、その地域における他の寿司店を中心としたレストラン同士の競争に勝つことを重点的に考えるステップから店舗展開やマーケティングを進めることができます。

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想像していた以上に日本人やアジア人の比率は低い

 

成功のポイント3:進出先の地域に合わせてローカライズ(地域化)する

 一度入店すると良くわかりますが、日本のくら寿司とアメリカのくら寿司では、メニューやシステムの細部に至るまで多くの違いがあります。実際に外食チェーンを展開する企業が海外展開する際には、サービスを中心として日本と同じ水準を維持することは非常に大変なことだと言われますが、そのようなやむを得ない違いを妥協した結果の差異ではなく、ある部分においては積極的に現地特有のニーズを取り入れることを忘れないという姿勢が、海外展開を成功させている要素になっている印象です。

 デザートを含むメニューとして好まれる味の研究や調査、日本人には許容されなくても、その地域では問題とされないサービス内容や価格の調整(その逆である、アメリカ人には許容されない日本特有の慣習なども、おそらく存在します)というローカライズがある程度行われていることも重要なポイントだと感じます。ただ一方で、ローカライズを行う際には、ポイント1で示した「差別化に繋がるノウハウ」を犠牲にしないことも同様に重要です。くら寿司の例で言えば、ウェイターが料理を運んできてくれる店の方が好まれる地域だからといって、寿司をロボットでサーブすることを止め、ベルトコンベアを無くしてしまうと、採算性や差別化の要素・強みが確実に犠牲になるはずです。

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一皿の価格は日本の2倍以上だが、もともとの外食の価格が日本に比べて高いアメリカにおいては、リーズナブルという顧客の反応も多い

 

成功のポイント4:”日本”というブランドに対する人々の期待に応えている

 不祥事や質の低下などが問題としてハイライトされている近年の日本国内においては、これまでに築かれてきた日本そのもののブランドイメージに対して、日本人自身が疑問を投げかけたくなる場面も少なくありません。

 しかしまだまだ海外においては、品質の良さ・サービスレベルの高さ・信頼感や安心感という面で、日本をとてもポジティブに評価してくださっている方々が多くいらっしゃいます。アメリカにおいて着実に海外展開を進めているくら寿司のような企業は、このような期待に応えようとする事業展開上のポリシーが感じられ、実際にレビューなどを見ても、価格もクオリティも満足度が高い、というアメリカ人からの高い評価を得ています。

 ひとたびこういった満足感を海外の顧客に提供することができれば、彼らがもともと持っている日本へのポジティブなブランドイメージと、企業やレストランのブランドイメージを上手く一体化させることができ、明らかな相乗効果が得られることに結びつくと考えます。

 

 

 日本国内の市場の伸びしろが少なくなってきていたり、次の5年・10年の事業展開を考えると海外進出を避けては通れないという日本企業も多く、海外展開で着実に成果をあげていくことは今後ますます重要になります。

 各企業や事業が持つ強みを残しながら、一方で適切にローカライズを進めるということは、相反する部分も少なからずあると想像します。また、進出先の国や地域ごとの文化や特徴をとらえておかなければ、ローカライズを成功させることは非常に難しいはずです。

 そういった苦労や思考錯誤が必ず必要となる日本企業の海外展開には、現場レベルから経営レベルまで幅広く大小さまざまなノウハウが多く存在しているはずなので、考察や取材を通じて、少しずつそういったエッセンスをまとめていきたいと思います。

 

 

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