戦略・戦術を組織へ浸透させる

 クロスSWOT分析により得られた戦略・戦術を実行に移すフェーズ辺りからは、その実施方法やスピードに企業ごとのばらつきが生じる気がします。一般的に中小企業は大企業に比べて小回りが利くことが強みであるとされますが、確かに事業運営が順調な中小企業ほど、経営者の声が企業内の組織に浸透しやすく、また従業員側もスピードを意識しながら自らの持ち場で行うべきことを考えて行動に移すことができる文化があります。その一方で、経営課題を抱える企業の場合は、どちらかというと経営者の声が企業内に浸透しづらく、スピードや行動力をあまり意識しない文化を持っていることが多いのではないでしょうか。
 
 
経営課題解決を拒む二つの壁
 これは企業が経営課題に直面している状況に限らず、個人レベルでの課題や悩みを解決する上でも同様の事が言えると思いますが、課題を解決する際には、①何をするべきかを決めて、②実行に移す、という大きく二つのステップを踏みます。企業経営に限って言えば、これまでに示したクロスSWOT分析等の目的は、前者の「何をするべきかを決める」為のフレームワークや分析であり、現状や課題を整理して戦略・戦術を導き出すことが目的でした。この①のステップを適切に行えるかどうかが、経営課題解決に向けた最初の壁ともいえますが、実際には「②実行に移す」というステップで直面する壁の方がはるかに大きいケースが多いと考えます。戦略・戦術を決めることに比べると、実行に移すステップの方がはるかに組織力を問われることになるからです。
 
 
戦略・戦術の組織へ浸透
 経営者が決めた戦略・戦術が組織に上手く浸透せず、実行に移せない時、組織内で何が起こっているかを整理してみると、以下のようなケースが想像できます。
 
経営者の決めた戦略・戦術が…
A. 従業員に「聞こえていない」
B. 従業員に「聞こえている」が「実行に移さない・実行する気が無い」
C. 従業員に「聞こえている」し「実行する気はある」が「方法がわからない」
 
 戦略・戦術を組織に浸透させて実行に移すには、上記のケースごとに対応が少し異なります。例えばAのケースは情報の共有に関する課題があるので、まずは経営者の意思を従業員に直接伝える”場”をしっかりと確保したり、様々な共有方法を検討することから始めます。次にBのケースは経営者と従業員の意思の疎通が図れず、おそらくは信頼関係が確立できていない(実は最も根が深い)ことを解消する必要があるので、細やかで地道なコミュニケーションから始めなければなりません。Cのケースであれば、例えば組織や部門別に手段をそれぞれが検討することから始めるだけでも対策が打てる可能性があるのではないでしょうか。
 
 
戦略・戦術を組織へ浸透する際のポイント
 ここまでに述べたように、経営者の決めた戦略・戦術が組織に浸透しない理由は企業によりさまざまな要因が考えられますので、一概に効果的なポイントを示すことは非常に難しいです。ただ、個人的な経験から一つポイントを挙げるとすれば、経営者が経営課題の解決を望む意識を、従業員としっかり共有することは非常に大切だと思います。これは単純に経営者の考えを従業員に”連絡する”というものではありません。経営者も従業員もお互いが企業の継続を望み、従業員も当事者として経営課題を意識するレベルまで意思の疎通をはかることを指しています。具体的な方法やアプローチは色々とあると思いますが、例えば外部環境分析や内部環境分析を行う際の情報源に、企業内の従業員や現場の声・情報をしっかりと取り入れること、またその為のコミュニケーションを経営者自らが現場に出向いて行うことなどが挙げられます。クロスSWOT分析等により得られた戦略・戦術の根幹に従業員の意見や情報がしっかりと組み込まれていれば、戦略・戦術を浸透させようとした際にも従業員側の納得度は向上します。
 
経営者の役割(戦略の浸透と現場情報の収集)


 
中小企業診断士に”できないこと”
 中小企業診断士が主にコンタクトするのはここで述べた「経営者」になります。その為、ここまでに述べたようにクライアントである経営者自身のスタンスや経営者と従業員との関係により、中小企業診断士として企業を支援する際の支援内容も幅広く存在することになります。ただ、組織文化の改善や経営者と従業員の信頼関係の構築という、企業を構成する人々の意識や心理に関わる作業は、残念ながら中小企業診断士のような社外の立場からでは直接改善に関わることはできません。”支援や”診断”という言葉がなんとなく”主体ではない”という意味を含んでいるとおり、主体となる経営者や従業員がより効率的に経営課題の解決に取り組めるように、ソフト(広義の情報)によるフォローやアドバイスを行うことだけが中小企業診断士にできることだと思います。
 
 

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